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佐藤町長・菅原CDOによる磐梯町DX戦略第1期(2020年度)振り返り対談

磐梯町DX戦略室、DX推進プロジェクトマネージャーの星です。
前回、実際に取り組んだ内容ベースでの2020年度の振り返りを記載しましたが、今回は佐藤町長、菅原CDOの二人の対談から振り返ります。

▶︎デジタル変革とは
自治体におけるデジタル変革(デジタルトランスフォーメーション、DX)とは、自治体がデジタル技術も活用して、住民本位の行政、地域、社会を実現するプロセスのことです。
磐梯町では、業務効率化、省人化、コスト削減を主目的とするICT化と、町民本位の行政、地域、社会の実現を主目的とするデジタル変革を、明確に区別して用いています。

▶︎磐梯町がなぜ全国に先駆けて、本気でDXに注力するのか?

磐梯町がDXに取り組む理由は、「誰もが自分らしく生きられる共生社会」というミッションと、「自分たちの子や孫たちが暮らし続けたい魅力あるまちづくり」というビジョンを実現するためです。
日本の多くの自治体がそうであるように、磐梯町も少子高齢化、地域経済の停滞等、様々な課題に直面しています。しかし、これらの課題を解決し、価値を創造し、新しい世界観を構築するためには、国等からやってくる「ヒト・モノ・カネ」に大きく依存した地域経営のあり方では限界があります。そこで、近年一般化しているデジタル技術を手段として活用することで、町民本位の新しい行政経営のモデルを実践していく必要があると考え、DX戦略を掲げています。

では、そもそも佐藤町長が全国に先駆けてDXに注力することになったのか、きっかけから現在(2020.3)までをお二人に振り返っていただきました。


ー佐藤町長がDXに注力する決断のきっかけは?
佐藤「菅原CDOとの出会いに尽きますね」
菅原CDOと佐藤町長の二人の出会いは、2019年1月に(一社)LivingAnywhereが企画するLivingAnywhere WEEKという地域でのテレワーク体験イベントに遡る。
ここで、当時は磐梯町町議会議員兼兼観光協会長という立場で参加した佐藤町長と、神奈川県議会議員であり(一社)Publitechの代表理事の菅原CDOが出会った。当時、佐藤町長はDXに注力しようとは思っていなかった。しかし、(一社)LivingAnywhereの理事も務める(株)LIFULLの代表取締役社長の井上からの誘いで参加した菅原CDOと佐藤町長が地域の人と交流する食事会で隣り合い、偶然の出会い「セレンディピティ」から磐梯町のDXは始まった。

「LivingAnywhere WEEK」
首都圏を始め、様々なバックグラウンドを持つ人が集まり、自分らしい生き方について互いに学び、地域と交流するプロジェクトである。北海道南富良野町、沖縄県うるま市、千葉県館山市など、様々な場所の遊休施設を活用して行われている企画であり、2019年1月の企画は、磐梯町が所有する遊休施設「七ツ森センター」で実施された。

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ー佐藤町長の菅原CDOの第一印象は?
佐藤「自信満々で喋り方がうまいなー、と感じました(笑)。けれど、話す内容がすごく魅力的で意気投合しました。4年間町議会議員をやっていて、今後、町を魅力的にしていくためには変革が必要だと感じる一方で、変えられないジレンマを感じていました。変革を進めるのに足りない部分は何か、悩んでいた時期に菅原さんと出会ったんです。
行政は住民の話を聞かなくてはいけません。しかし、ひとえに住民といっても様々な人がいます。行政目線で一律に町民と接していくことは違うのではないか、一人ひとりに合ったサービスをどう提供していくのか、1to1マーケティングをしていく必要があると考えていました。テクノロジーを活用することは漠然と考えていたものの、当時の私は今やっていることをシステム化していく、ICTが鍵になると考えていました。しかし、菅原さんからテクノロジーで人々をエンパワーメントする、DXとはイノベーションであるという話を聞いて、足りないと思っていたものは、まさにこれだ! と感じたんです。テクノロジーを手段として変革の近道にして、町民を幸せにしていくという話が刺さりました」

菅原CDOも、当時は磐梯町をフィールドにすることは想定していなかった。
しかし、二人が出会ってから間も無く、当時の磐梯町長が次の選挙に出馬しないことを決め、佐藤町長が磐梯町長選への出馬を決断した。

ー菅原CDOから見た佐藤町長の第一印象は?
菅原「経営視点を持った方だなあと感じました。そして、先見性があります。今や国もデジタル庁を掲げ、DXもメディアでも取り上げられるようになりましたが、当時は行政の現場では『DXって何?』と言われるところからのスタートでした。
テクノロジーで人々をエンパワーメントしていくためにも、自治体を変えていく必要があると感じていました。しかし、議員は提言はできるけれど、変える立場ではありません。執行側=行政が変わらなくては何も変わりません。しかし、歴史があるような、大きな自治体を変えていくことは非常に難しいですが、規模の小さな自治体はスピード感を持って変えていくことができると考えていました。ただ、規模が小さいだけでは成功しません。トップが重要です。DXとは経営です。覚悟を持って決断し、責任を取る。私も議員をやっていますが、議員や首長にはいろんな目的を持った人がいます。僕は本気で変えたい人。そういう思いでは、佐藤町長も同じだと感じました。けれど、僕と佐藤町長のアプローチは違います。佐藤町長は町長選の前から「町民を幸せにする」という強い意思がありました。そして、経営視点があったので、僕も磐梯町に関わることを決めました」


▶︎どんな磐梯町を目指しているか

佐藤「総合計画に掲げたビジョン『自分たちの子や孫たちが暮らし続けたい魅力あるまちづくり』に尽きます。実現していくには、具体的な項目である『未来へ繋がるまちづくり』、『やりがいのある仕事づくり』、『充実した暮らしづくり』、『共創協働のまちづくり』の項目に落とし込んでいますが、大前提として『磐梯町に住むことが幸せになる』ということを突き詰めていく必要があります。コミュニティがしっかりして、助け合っていけるように、まずは町が町民一人ひとりを見る仕組みが必要です。誰一人取り残さないまちを、デジタル技術も手段として活用して、町民の皆さん、磐梯町に関わる皆さんと創っていきたいと思います」

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磐梯町総合計画
https://www.town.bandai.fukushima.jp/soshiki/seisaku/sougoukeikaku.html
磐梯町は2020年3月に総合計画を策定した。総合計画では、「自分たちの子や孫たちが暮らし続けたい魅力あるまちづくり」を目指すべき将来像に掲げ、4つの基本目標「未来へ繋がるまちづくり」、「やりがいのある仕事づくり」、「充実した暮らしづくり」、「共創協働のまちづくり」を設定し、それぞれの分野において設定した数値目標を達成すべく、透明性のある事業を展開する。


▶︎磐梯町第1期デジタル変革戦略「策定」のポイント

磐梯町デジタル変革戦略(通称:DX戦略)は、磐梯町総合計画(2020年3月)の策定を受けて設置されたデジタル変革戦略室が、同計画の将来像である「自分たちの子や孫たちが暮らし続けたい魅力あるまちづくり」や同室の使命である「誰もが自分らしく生きられる共生社会の共創」を、DX(デジタル変革)を通じて具現化するために策定された戦略である。

戦略策定までのプロセスはこちらの記事をご参照ください!

https://note.com/bandai_town/n/ndd776d4f2319/


―磐梯町第1期デジタル変革戦略の策定のポイントは?
菅原「僕たちの出会いが、佐藤さんが町長じゃなかったところから始まったこと、最初からDXについて議論していたことが良かったと思います。行政のトップは変化を嫌う方もいます。だから、トップになるタイミングでDXを掲げることができたことも良かったと思います。
そして、町のビジョンがはっきりしていたこともポイントです。ビジョンがあることは当たり前のように感じるかもしれませんが、実はビジョンがしっかりと定まっていないトップは意外にいます。磐梯町はビジョン、ミッションをしっかり定めました。磐梯町の人口は約3400人。3400通りの幸せのカタチがあります。自治体の行政運営はリソースが限られています。だから、これまでは一律でサービスを提供をせざるを得ませんでした。しかし、デジタル技術を提供することで町民一人ひとりに合わせた個別最適をはかることが可能になります。そこで、『誰もが自分らしく生きられる共生社会の共創』を、DX(デジタル変革)を通じて具現化することをDX戦略室のミッションを定めました」

ー会津藩の教えである「什の掟」に倣い、磐梯町は第1期デジタル変革戦略にも「什の掟」を掲げたのはなぜか?

什の掟とは?
江戸時代、会津藩士の子供たちは、地区ごとに「什」というグループが定められており、6歳から9歳まではこの「什」に属する。基本的に遊びも勉強も、この「什」のグループで一緒に行う。「什の掟」とは什の中のルールで、毎日最年長である什長がこれを唱和し、メンバーがきちんと守れているかどうか、確認していた。
一、年長者の言うことに背いてはなりませぬ
二、年長者には御辞儀をしなければなりませぬ
三、虚言をいふ事はなりませぬ
四、卑怯な振舞をしてはなりませぬ
五、弱い者をいぢめてはなりませぬ
六、戸外で物を食べてはなりませぬ
七、戸外で婦人と言葉を交えてはなりませぬ
これに「ならぬことはならぬものです」を付け加えたものが「什の掟」である。
(出典:會津藩校日新館

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菅原「僕は2020年4月にCDOに着任し、政策課付になり、DXの準備室を立ち上げました。同年7月にDX戦略室が発足したのですが、当時の政策課長は『できませぬ』と言うことが多かったんです(笑)。これは比較的行政では当たり前のことです。彼が悪いという訳ではなく、できない理由を探す、前例に習う、のが行政です。しかし、マネジメントが変われば、人は変わります。
そこで、『できませぬ』を言わせない仕組みにすることにしました。会津の歴史に根付いている什の掟に倣って、磐梯町DX戦略の什の掟として『できない理由を並べてはなりませぬ』を掲げました。結果として『できませぬ』と言えなくなった課長は、なんとかできる方法を考えるようになりました。今や、全庁の中で『できませぬ』と言いそうになる他の課の職員に対してできる方法を考えようと働きかけて、磐梯町のDX全体を推し進めてくれる存在になっています」

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▶︎磐梯町DX戦略の1年目を振り返ってみて

佐藤「やれることはやり尽くしていますね!戦略を立ち上げた当初は、菅原さんと時間がかかるだろうと話をしていました。しかし、新型コロナウイルスにより生活様式が一変したことが逆に追い風となって、教育や行政の窓口、テレワークの実施など、DXを使わないと実現できない状況になりました。新型コロナウイルスによる生活の変化が、将来的に日本がやるべきことを加速・進化させているとも言えるでしょう。準備期間も含め、この1年半という短期間で、議会への説明も含め、順を追って相当なことをやってきました。私は民間出身ですが、民間の感覚値でいっても相当なスピード感で進んでいます。行政では5年分のスピード感で進めていると言えるのではないでしょうか。 自走し始めている部分もある一方で、DXが一人歩きしている部分もあります。今、様々な企業とも連携協定を結んだり、AIスピーカーを活用した高齢者世帯とのコミュニケーションなど官民共創プロジェクトを創出していますが、お互いにとって価値のある・実行力を持った連携に、今後チャレンジして行きたいですね」

菅原「自己評価ではよくやっていると思っています。3年でやり切りたいと思っていましたが、教科書通りにスピード感を持って着実にできていると手応えを感じています。どこで感じているかと言うと、組織を変える決断ができない自治体が多い中、磐梯町のDX戦略室は会議も資料の共有なども含め、デジタル前提組織(デジタルネイティブ組織)として完全にできているというところです。平井大臣がデジタル庁の中で掲げていることは、今まさに磐梯町がやっていることです。すごいスピード感で進めていますが、ポイントはDXはあくまでも手段であり、目的にしていないことと、教科書通りにステップ通りに進めていることですね」

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▶︎磐梯町第1期デジタル変革戦略「推進」のポイント

菅原「磐梯町のデジタル変革の主な課題は、行政において、業務の可視化(→BPR)、情報のデータ化、業務のICT化というデジタル変革を推進する前提条件が整っていないことと、職員や住民のデジタルリテラシーや環境がそれに追いついていないことです。したがって、一年目である本年は基礎固めを着実にするべく、意地でも急ぎませんでした。
ステークホルダーで言うと、年齢なども踏まえて理解度の差はありますが、議会が私たちに委ねてくれました。佐藤町長が言うようにコロナという状況も磐梯町のDXを後押ししています。昨年の4月に議会の委員会のオンラインで開催したことで、議員と職員のマインドセットが早かったと感じています。1年目は職員研修にも力を入れ、リテラシーが向上して今につながっています。
今では、僕が何も言わなくても職員が自発的に総合政策の審議会をオンラインで開催しようと提案することも生まれています。段々とデジタルを活用することが当たり前になり、そこにいろんな外部の人材が入って一つのチームをつくっています」

▶︎課題の変化

今、磐梯町の庁内のコミュニケーションツールとしてTeamsが浸透してきている。町長の庁内向けのブログ等もメール配信からTeamsでの投稿に切り替えて発信したり、各課ごとの毎朝の体温測定において共同編集できるエクセルのシートにみんなが体温を記入したり、地域おこし協力隊の面接にオンライン会議ツールを使うなど、各課でも少しずつ活用が進んでいる。しかし、まだ全庁的に活用されているとは言えない。

Teamsとは
マイクロソフトが提供しているコミュニケーションツールである。テレワークやリモートワークをする際に便利なチャットやファイル共有、ビデオ会議といった機能があり、Microsoft 365アプリケーションの一部である。

佐藤「磐梯庁内のTeamsやデジタル活用の浸透率は、所感として3割です。職員には今のやり方を変えたくない人、新しいことを遠くから眺めている人もいます。もちろん各課、各現場で課題もあります。しかし、Teamsやデジタルを活用することで周りを巻き込み、変えていくことができるとわかると、きっと浸透率が5割を超えて、さらに大きく変わっていくと思っています」

▶︎R3年度の磐梯町のチャレンジ

佐藤「一つはBPR(ビジネスプロセス・リエンジニアリング)です。BPRを成功させることで、職員が自分たちの仕事を改善し、仕事のやり方を変えていくことができ、町民一人ひとりに向き合う仕組みづくりにつながっていきます。
もう一つは町民のデジタルリテラシーを上げていくことです。現在、NTTデータ、官民共創未来コンソーシアムと連携し、AIスピーカーを使った高齢者世帯との双方向コミュニケーションに関する実証実験も行なっています。民生員や高齢者がデジタルに触れる機会を増やしたり、地域デジタル通貨をテスト導入したり、町民の皆さんに親しみを持ってもらいたいと考えています。職員、町民、双方がお互いに変わっていけるよう、この二つに注力したいですね」

菅原「佐藤町長とは違う視点で三つ挙げます。1点目は『PR』。外部に対する発信だけなく、まずは内部に向けてPRしていきます。内部も二つあります。一つは職員の皆さんへの説明です。自分事化してもらうことが重要です。もう一つは地域の皆さんに対するPRです。磐梯町のDXの取り組みは、NHKをはじめ様々なメディアで取り上げられるようになっていますが、ダイレクトに町から町民の皆さんに伝わるようにしっかりと説明していきたいと思います。
2点目は「システム」です。やりたいことがあっても、全体を踏まえたシステムができていないと、個別最適になってしまい、結果として町民の皆さんも職員の皆さんも使いにくい行政サービスになってしまいます。完全クラウドで全体最適されたシステムを構築していきます。
3点目は「デザイン」です。デザインとは見た目を整えることだけではありません。デジタルもシステムもあくまでも手段です。町民・職員が使いやすいようにプロセスを踏まえたデザイン設計を行っていきます。
2点目と3点目は、4月からCDO補佐官として、システムとデザインのスペシャリスト2名に入っていただきます。彼らの知見を生かしながら進めていきます」

▶︎どんな人々に、磐梯町に関わってほしいか?

菅原「次のDX戦略のフェーズに向けて、サポートしてくれる人が必要です。先ほどお伝えした通り、今年は職員、町民のデジタルリテラシーを引き上げていきます。高齢者を含め、遅れてくる人たちもいます。そうした人たちをいかにケアすることができるか。こうしたところに目を向けられる人に関わっていただきたいと思います。
また、地域で面白いことにチャレンジしたいけれど、なかなか一緒に取り組んでくれる自治体がない、という方もお待ちしています。例えば、2020年12月に実施した第3回パブリテックサミットin磐梯で、LIFULLの井上社長が言っていたような、街の中に新しいデジタルのまちをつくるようなアイデアも、本気でやり切ろうという意思を持っている人は多くはありません。けれど、そうした本気の人と、磐梯町は一緒にチャレンジしたいと思っています。町民も巻き込んで、新しいことにどんどんチャレンジしていきたいですね」

佐藤「今はコロナ禍で職員との飲み会等もありません。緊急事態宣言が明けたら、職員たちと顔を突き合わせて議論していきたいですね。また、町だけが取り組むのではなく、町民の皆さんに対してもしっかりと説明し、関わってもらえるような仕組みにしていきたいと思います。地域の人たちが活動しやすいように伴走し、活性している状態をつくれるように、町内外の皆さんとつながっていきたいと思います」


▶︎DXを推進しようとする他の地域へのメッセージ

菅原「ようやく世の中が変わってきましたが、佐藤町長と僕は、お互いがお互いの存在に救われています。前例のないものをやろうとすると逃げたくなることもあります。しかし、トップがやり続けると強い意思で決断し、進めてくれるので頑張ることができます。普通、首長は次の選挙のことを考えがちです。けれど、佐藤町長は次の選挙を考えていない(笑)。突き抜け、本気が伝わると、人はついてきます。だからこそ、磐梯には地域の皆さんも、複業の外部人材も集まっていくるのだと思います。今やいろんな自治体から声がかかっていますが、磐梯町のように本気でトップがやりきる意思を持っているかが重要だと感じています」


磐梯町DXの旗振り役の二人の振り返りでした!
次回の記事では、実際に磐梯町のDXを推進するプロジェクトメンバーについて紹介していきたいと思います!



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